をこぼれて篠《しの》つくばかり降りかかる吹上げの水を照し、相対《あいたい》して、またさきに申上候銅像の右手《めて》に提《ひっさ》げたる百錬鉄の剣に反映して、次第に黒くなりまさる漆《うるし》の如き公園の樹立《こだち》の間《なか》に言ふべからざる森厳《しんげん》の趣を呈し候、いまにも雨降り候やうなれば、人さきに立帰り申候。
三
あくれば凱旋祭の当日、人々が案じに案じたる天候は意外にもおだやかに、東雲《しののめ》より密雲破れて日光を洩《もら》し候が、午前に到りて晴れ、昼少しすぐるより天晴《あっぱれ》なる快晴となり澄《すま》し候。
さればこそ前《ぜん》申上げ候通り、ただうつくしく賑《にぎや》かに候ひし、全市の光景、何より申上げ候はむ。ここに繰返してまた単に一幅《いっぷく》わが県全市の図は、七色を以てなどりて彩られ候やうなるおもひの、筆|執《と》ればこの紙面《しめん》にも浮びてありありと見え候。いかに貴下、さやうに候はずや。黄なる、紫なる、紅《くれない》なる、いろいろの旗天を蔽《おお》ひて大鳥の群れたる如き、旗の透間《すきま》の空青き、樹々《きぎ》の葉の翠《みどり》なる、路
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