橋の上渡り来るうつくしき女の藤色の衣《きぬ》の色、あたかも藤の花|一片《ひとひら》、一片の藤の花、いといと小さく、ちらちら眺められ候ひき。
こは月のはじめより造りかけて、凱旋祭の前一日の昼すぎまでに出来上り候を、一度見たる時のことに有之《これあり》候。
夜に入ればこの巨象の両個の眼《まなこ》に電燈を灯《ひとも》し候。折から曇天《どんてん》に候ひし。一体に樹立《こだち》深く、柳松など生茂《おいしげ》りて、くらきなかに、その蒼白なる光を洩《もら》し、巨象の形は小山の如く、喬木の梢を籠《こ》めて、雲低き天に接し、朦朧《もうろう》として、公園の一方にあらはれ候時こそ怪獣は物凄《ものすさ》まじきその本色《ほんしょく》を顯《あらわ》し、雄大なる趣を備へてわれわれの眼には映じたれ。白昼はヤハリ唯毛布を以て包みなしたる山桜の妖精に他ならず候ひし。雲はいよいよ重く、夜はますます闇《くら》くなり候まま、炬《きょ》の如き一双《いっそう》の眼、暗夜に水銀の光を放ちて、この北の方《かた》三十間、小川の流《ながれ》一たび灌《そそ》ぎて、池となり候池のなかばに、五条の噴水、青竜の口よりほとばしり、なかぞらのやみ
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