ふたうね》り蜿りて喞筒《ポンプ》を見るやう、空高き梢より樹下を流るる小川に臨みて、いま水を吸ふ処に候。脚《あし》は太く、折から一員の騎兵の通り合せ候が、兜形《かぶとがた》の軍帽の頂《いただき》より、爪《つめ》の裏まで、全体唯その前脚《まえあし》の後《うしろ》にかくれて、纔《わずか》に駒《こま》の尾のさきのみ、此方《こなた》より見え申し候。かばかりなる巨象の横腹をば、真四角《まっしかく》に切り開きて、板を渡し、ここのみ赤き氈《せん》を敷詰めて、踊子が舞の舞台にいたし候。葉桜の深翠《ふかみどり》したたるばかりの頃に候へば、舞台の上下にいや繁《しげ》りに繁りたる桜の葉の洩《も》れ出《い》で候て、舞台は薄暗く、緋《ひ》の毛氈の色も黒ずみて、もののしめやかなるなかに、隣国を隔《へだ》てたる連山の巓《いただき》遠く二ツばかり眉を描きて見渡され候。遠山桜あるあたりは、公園の中《うち》にても、眺望《ちょうぼう》の勝景《しょうけい》第一と呼ばれたる処に候へば、式《かた》の如き巨大なる怪獣の腹の下、脚《あし》の四《よ》ツある間を透《すか》して、城の櫓《やぐら》見え、森も見え、橋も見え、日傘《ひがさ》さして
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