は》かせたるが見え候。皆切取つたる敵兵の首の形にて候よし。さればその色の蒼きは死相をあらはしたるものに候はむか。下の台は、切口なればとて赤く塗り候。上の台は、尋常に黒くいたし、辮髪《べんぱつ》とか申すことにて、一々|蕨縄《わらびなわ》にてぶらぶらと釣りさげ候。一ツは仰向き、一ツは俯向《うつむ》き、横になるもあれば、縦になりたるもありて、風の吹くたびに動き候よ。
二
催《もよおし》のかかることは、ただ九牛《きゅうぎゅう》の一毛《いちもう》に過ぎず候。凱旋門《がいせんもん》は申すまでもなく、一廓《いっかく》数百金を以て建られ候。あたかも記念碑の正面にむかひあひたるが見え候。またその傍《かたわら》に、これこそ見物《みもの》に候へ。ここに三抱《みかかえ》に余る山桜の遠山桜とて有名なるがござ候。その梢より根に至るまで、枝も、葉も、幹も、すべて青き色の毛布にて蔽《おお》ひ包みて、見上ぐるばかり巨大なる象の形に拵《こしら》へ候。
毛布はすべて旅団の兵員が、遠征の際に用ゐたるをつかひ候よし。その数八千七百枚と承り候。長蛇《ちょうだ》の如き巨象の鼻は、西の方にさしたる枝なりに二蜿《
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