野の紳士など、尽く銀山閣といふ倶楽部《くらぶ》組織の館《やかた》に会して、凡《およ》そ半月あまり趣向を凝《こら》されたるものに候よし。
 先《ま》づ巽《たつみの》公園内にござ候記念碑の銅像を以て祭の中心といたし、ここを式場にあて候。
 この銅像は丈《たけ》一丈六尺と申すことにて、台石は二間《にけん》に余り候はむ、兀如《こつじょ》として喬木《きょうぼく》の梢《こずえ》に立ちをり候。右手《めて》に提《ひっさ》げたる百錬鉄《ひゃくれんてつ》の剣《つるぎ》は霜を浴び、月に映じて、年紀《とし》古《ふ》れども錆色《せいしょく》見えず、仰ぐに日の光も寒く輝き候。
 銅像の頭《かしら》より八方に綱を曳《ひ》きて、数千の鬼灯提灯《ほおずきじょうちん》を繋《つな》ぎ懸け候が、これをこそ趣向と申せ。一ツ一ツ皆|真蒼《まっさお》に彩り候。提灯の表には、眉を描き、鼻を描き、眼《まなこ》を描き、口を描きて、人の顔になぞらへ候。
 さて目も、口も、鼻も、眉も、一様《いつよう》普通のものにてはこれなく、いづれも、ゆがみ、ひそみ、まがり、うねりなど仕《つかまつ》り、なかには念入《ねんいり》にて、酔狂にも、真赤な舌を吐《
前へ 次へ
全14ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング