しろ》にぱツと立つたれば、その尾のあたりは埃《ほこり》にかくれて、躍然《やくぜん》として擡《もた》げたるその臼《うす》の如き頭《こうべ》のみ坂の上り尽くる処雲の如き大銀杏《おおいちょう》の梢《こずえ》とならびて、見るがうちに、またただ七色の道路のみ、獅子の背のみ眺《なが》められて、蜈蚣《むかで》は眼界を去り候。疾《と》く既に式場に着し候ひけむ、風聞《うわさ》によれば、市内各処における労働者、たとへばぼてふり、車夫、日傭取《ひようとり》などいふものの総人数をあげたる、意匠の俄《パフナリー》に候とよ。
彼《か》の巨象と、幾頭の獅子と、この蜈蚣と、この群集とが遂《つい》に皆式場に会したることをおん含《ふくみ》の上、静にお考へあひなり候はば、いかなる御感《おんかん》じか御胸《おんむね》に浮び候や。
五
別に凱旋門《がいせんもん》と、生首提灯《なまくびじょうちん》と小生は申し候。人の目鼻書きて、青く塗りて、血の色染めて、黒き蕨縄《わらびなわ》着けたる提灯と、竜の口なる五条の噴水と、銅像と、この他に今も眼に染《し》み、脳に印して覚え候は、式場なる公園の片隅に、人を避けて悄然《
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