んてい》が苦心に苦心を重ねてからに、命がけで目的を達しやうとして、十に八、九は失敗《しくじ》るのだ。それに最も安全な、最も便利な地位にあつて、まるでうつちやツて、や、聞かうとも思はない。無、無神経極まるなあ。」
と吐息して慨然たり。看護員は頸《うなじ》を撫《な》でて打傾《うちかたむ》き、
「なるほど、左様でした。閑《ひま》だとそんな処まで気が着いたんでしやうけれども、何しろ病傷兵の方にばかり気を取られたので、ぬかつたです。些少《ちっと》も準備が整はないで、手当が行届かないもんですから随分繁忙を極めたです。五分と休む間《ひま》もない位で、夜の目も合はさないで尽力したです。けれども、器具も、薬品も不完全なので、満足に看護も出来ず、見殺にしたのが多いのですもの、敵情を探るなんて、なかなかどうして其処々《そこどころ》まで、手が廻るものですか。」
といまだいひも果《はて》ざるに、
「何だ、何だ、何だ。」
海野は獅子吼《ししぼえ》をなして、突立《つった》ちぬ。
「そりや、何の話だ、誰に対する何奴《どいつ》の言《ことば》だ。」
と噛着《かみつ》かむずる語勢なりき。
看護員は現在おのが身の如
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