ぶつぶつ口小言《くちこごと》いひつつありし、他の多くの軍夫らも、鳴《なり》を留めて静まりぬ。されど尽く不穏の色あり。眼光鋭く、意気激しく、いづれも拳《こぶし》に力を籠《こ》めつつ、知らず知らず肱《ひじ》を張りて、強ひて沈静を装ひたる、一室にこの人数を容《い》れて、燈火の光|冷《ひやや》かに、殺気を籠《こ》めて風寒く、満州の天地|初夜《しょや》過ぎたり。
二
時に海野は面《おもて》を正し、警《いまし》むるが如き口気《くちぶり》以て、
「おい、それでは済むまい。よしむば、われわれ同胞が、君に白状をしろといつたからツて、日本人だ。むざむざ饒舌《しゃべ》るといふ法はあるまいぢやないか、骨が砂利にならうとままよ。それをさうやすやすと、知つてれば白状したものをなんのツて、面と向つてわれわれにいはれた道理《ぎり》か。え? どうだ。いはれた義理《ぎり》ではなからうでないか。」
看護員は身を斜《なな》めにして、椅子に片手を投懸けつつ、手にせる鉛筆を弄《もてあそ》びて、
「いや。しかし大きに左様《そう》かも知れません。」
と片頬《かたほ》を見せて横を向きぬ。
海野は※[#「目+爭
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