っさん》だ。だからもう皆《みんな》がうすうす知つてるぜ。つい隊長様なんぞのお耳へ入つて、御存じだから、おい奴《やっこ》さむ。お前お検《しらべ》の時もそのお談話《はなし》をなすつたらう。ほんによ、お前がそんねえな腰抜たあ知らねえから、勿体《もってえ》ねえ、隊長様までが、ああ、可哀想だ、その女の父親とか眼を懸けて遣《つか》はせとおつしやらあ、恐しい冥伽《みょうが》だぜ。お前そんなことも思はねえで、べんべんと支那兵《チャンチャン》の介抱《かいほう》をして、お礼をもらつて、恥かしくもなく、のんこのしやあで、唯今帰つて来はどういふ了見だ。はじめに可哀想だと思つたほど、憎《にく》くてならねえ。支那《チャン》の探偵《いぬ》になるやうな奴は大和魂《やまとだましい》を知らねえ奴だ、大和魂を知らねえ奴あ日本人のなかまじやあねえぞ、日本人のなかまでなけりや支那人《チャン》も同一《おんなじ》だ。どてツ腹あ蹴破《けやぶ》つて、このわたを引ずり出して、噛潰《かみつぶ》して吐出すんだい!」
「其処《そこ》だ!」と海野は一喝《いっかつ》して、はたと卓子《ていぶる》を一打《ひとうち》せり。かかりし間《あいだ》他の軍夫は
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