五、六人で宿営地へ急ぐ途中、酷《ひど》く吹雪《ふぶ》く日で眼も口もあかねへ雪ン中に打倒《ぶったお》れの、半分|埋《う》まつて、ひきつけてゐた婦人《おんな》があつたい。いつて見りや支那人《チャン》の片割《かたわれ》ではあるけれど、婦人だから、ねえ、おい、構ふめえと思つて焚火《たきび》であつためて遣ると活返《いきけえ》つた李花[#「李花」に丸傍点]てえ女《むすめ》で、此奴《こいつ》がエテよ。別離苦《わかれ》に一目《ひとめ》てえんで唯《たった》一人《ひとり》駈出《かけだ》してさ、吹雪僵《ふぶきだおれ》になつたんだとよ。そりや後《あと》で分つたが、そン時あ、おいらツちが負《おぶ》つて家《うち》まで届けて遣つた。その因縁でおいらちよいちよい父親《おやじ》の何とかてえ支那の家へ出入をするから、悉《くわ》しいことを知つてるんだ。女はな、ものずきじやあねえか、この野郎が恋しいとつて、それつきり床着《とこづ》いてよ、どうだい、この頃じやもう湯も、水も通らねえツさ。父親なんざ気を揉《も》んで銃創《てっぽうきず》もまだすつかりよくならねえのに、此奴《こいつ》の音信《たより》を聞かうとつて、旅団本部へ日参《に
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