贔負《ひいき》をしたりして、内幕を知つててもいはねえんぢやあねえか。かう、おいらの口は浄玻璃《じょうはり》だぜ。おいらあしよつちう知つてるんだ。おい皆《みんな》聞かつし、初手《しょて》はな、支那人《チャンチャン》の金満が流丸《ながれだま》を啖《くら》つて路傍《みちばた》に僵《たお》れてゐたのを、中隊長様が可愛想だつてえんで、お手当をなすつてよ、此奴《こいつ》にその家まで送らしてお遣《や》んなすつたのがはじまりだ。するとお前その支那人《チャン》を介抱して送り届けて帰りしなに、支那人の兵隊が押込むだらう。面くらいやアがつてつかまる処をな、金満の奴《やっこ》さん恩儀を思つて、無性《むしょう》に難有《ありがた》がつてる処だから、きわどい処を押隠して、やうやう人目を忍ばしたが、大勢押込むでゐるもんだから、秘《かく》しきれねえでとうどう奥の奥の奥ウの処の、女《むすめ》の部屋へ秘したのよ。ね、隠れて五日《いつか》ばかり対向《さしむか》ひでゐるあひだに、何でもその女が惚《ほ》れたんだ。無茶におツこちたと思ひねえ。五日目に支那の兵が退《ひ》いてく時つかめえられてしよびかれた。何でもその日のこつた。おいら
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