ねえだよ、その代《かわり》にゃ、姉さんもそうやって働いてるだ。
 なあ姉さん、己《おら》が嫁さんだって何だぜ、己が漁に出掛けたあとじゃ、やっぱり、張《はり》ものをしてくんねえじゃ己|厭《いや》だぜ。」
「ああ、しましょうとも、しなくってさ、おほほ、三ちゃん、何を張るの。」
「え、そりゃ、何だ、またその時だ、今は着たッきりで何にもねえ。」
 と面くらった身のまわり、はだかった懐中《ふところ》から、ずり落ちそうな菓子袋を、その時縁へ差置くと、鉄砲玉が、からからから。
「号外、号外ッ、」と慌《あわただ》しく這身《はいみ》で追掛けて平手で横ざまにポンと払《はた》くと、ころりとかえるのを、こっちからも一ツ払いて、くるりとまわして、ちょいとすくい、
「は、」
 とかけ声でポンと口。
「おや、御馳走様《ごちそうさま》ねえ。」
 三之助はぐッと呑《の》んで、
「ああ号外、」と、きょとりとする。
 女房は濡れた手をふらりとさして、すッと立った。
「三ちゃん。」
「うむ、」
「お前さん、その三尺は、大層色気があるけれど、余りよれよれになったじゃないか、ついでだからちょいとこの端へはっておいて上げましょう。
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