んだもの。三ちゃん、お前さんの許《とこ》なんぞも、やっぱりこうかねえ、浜へはちっとでも放れているから、それでも幾干《いくら》か少なかろうねえ。」
「やっぱり居ら、居るどころか、もっと居ら、どしこと居るぜ。一つかみ打捕《ふんづかめ》えて、岡田螺《おかだにし》とか何とかいって、お汁《つけ》の実にしたいようだ。」
とけろりとして真顔にいう。
三
こんな年していうことの、世帯じみたも暮向《くらしむ》き、塩焼く煙も一列《ひとつら》に、おなじ霞《かすみ》の藁屋《わらや》同士と、女房は打微笑《うちほほえ》み、
「どうも、三ちゃん、感心に所帯じみたことをおいいだねえ。」
奴《やっこ》は心づいて笑い出し、
「ははは、所帯じみねえでよ、姉《あね》さん。こんのお浜ッ子が出来てから、己《おら》なりたけ小遣《こづかい》はつかわねえ。吉や、七と、一銭《いちもん》こを遣《や》ってもな、大事に気をつけてら。玩弄物《おもちゃ》だのな、飴《あめ》だのな、いろんなものを買って来るんだ。」
女房は何となく、手拭《てぬぐい》の中《うち》に伏目《ふしめ》になって、声の調子も沈みながら、
「三ちゃんは、ど
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