》へ、台尻重く引つけ置く、三代相伝の火縄銃、のッそりと取上げて、フッと吹くと、ぱッと立つ、障子のほこりが目に入って、涙は出ても、狙《ねらい》は違えず、真黒《まっくろ》な羽をばさりと落して、奴《やっこ》、おさえろ、と見向《みむき》もせず、また南無阿弥陀《なむあみだ》で手内職。
 晩のお菜《かず》に、煮たわ、喰ったわ、その数三万三千三百さるほどに爺《じい》の因果が孫に報《むく》って、渾名《あだな》を小烏《こがらす》の三之助、数え年十三の大柄な童《わっぱ》でござる。
 掻垂《かきた》れ眉を上と下、大きな口で莞爾《にっこり》した。
「姉様《あねさん》、己《おら》の号外だよ。今朝、号外に腹が痛んだで、稲葉丸さ号外になまけただが、直きまた号外に治っただよ。」
「それは困ったねえ、それでもすっかり治ったの。」と紅絹切《もみぎれ》の小耳を細かく、ちょいちょいちょいと伸《のば》していう。
「ああ号外だ。もう何ともありやしねえや。」
「だって、お前さん、そんなことをしちゃまたお腹が悪くなるよ。」
「何をよ、そんな事ッて。なあ、姉様《あねさん》、」
「甘いものを食べてさ、がりがり噛《かじ》って、乱暴じゃない
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