しく、かッたるそうに頭《つむり》を下に垂れたまま、緩《ゆる》く二ツばかり頭《かぶり》を掉《ふ》ったが、さも横柄《おうへい》に見えたのである。
 また泣き出したを揺《ゆす》りながら、女房は手持無沙汰《てもちぶさた》に清《すず》しい目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ったが、
「何ですね、何が欲《ほし》いんですね。」
 となお物貰《ものもら》いという念は失《う》せぬ。
 ややあって、鼠《ねずみ》の衣の、どこが袖ともなしに手首を出して、僧は重いもののように指を挙げて、その高い鼻の下を指した。
 指すとともに、ハッという息を吐《つ》く。
 渠《かれ》飢えたり矣。
「三ちゃん、お起きよ。」
 ああ居てくれれば可《よ》かった、と奴《やっこ》の名を心ゆかし、女房は気転らしく呼びながら、また納戸へ。

       十四

 強盗《ごうとう》に出逢《であ》ったような、居もせぬ奴《やっこ》を呼んだのも、我ながら、それにさへ、動悸《どうき》は一倍高うなる。
 女房は連《しき》りに心急《こころせ》いて、納戸に並んだ台所口に片膝つきつつ、飯櫃《めしびつ》を引寄せて、及腰《およびごし》に手桶《
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