しぬけ》にいわれたので、急に胸がせまったらしい。
「ああ、」
 と片袖《かたそで》を目にあてたが、はッとした風で、また納戸を見た。
「がさがさするね、鴉が入りやしまいねえ。」
 三之助はまた笑い、
「海から魚が釣りに来ただよ。」
「あれ、厭《いや》、驚《おど》かしちゃ……」
 お浜がむずかって、蚊帳《かや》が動く。
「そら御覧な、目を覚ましたわね、人を驚《おど》かすもんだから、」
 と片頬《かたほ》に莞爾《にっこり》、ちょいと睨《にら》んで、
「あいよ、あいよ、」
「やあ、目を覚《さま》したら密《そっ》と見べい。おらが、いろッて泣かしちゃ、仕事の邪魔するだから、先刻《さっき》から辛抱してただ。」と、かごとがましく身を曲《くね》る。
「お逢《あ》いなさいまし、ほほほ、ねえ、お浜、」
 と女房は暗い納戸で、母衣蚊帳《ほろがや》の前で身動《みじろ》ぎした。
「おっと、」
 奴《やっこ》は縁に飛びついたが、
「ああ、跣足《はだし》だ姉《あね》さん。」
 と脛《すね》をもじもじ。
「可《いい》よ、お上りよ。」
「だって、姉《あね》さんは綺麗《きれい》ずきだからな。」
「構わないよ、ねえ、」
 と
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