こみち》を見返り、
「もっと町の方へ引越して、軒へ瓦斯燈《がすとう》でも点《つ》けるだよ、兄哥《あにや》もそれだから稼ぐんだ。」
「いいえ、私ゃ、何も今のくらしにどうこうと不足をいうんじゃないんだわ。私は我慢をするけれどね、お浜が可哀《かわい》そうだから、号外屋でも何んでもいい、他《ほか》の商売にしておくれって、三ちゃん、お前に頼むんだよ。内の人が心配をすると悪いから、お前決して、何んにもいうんじゃないよ、可《い》いかい、解《わか》ったの、三ちゃん。」
 と因果を含めるようにいわれて、枝の鴉《からす》も頷《うなず》き顔。
「むむ、じゃ何だ、腰に鈴をつけて駈《か》けまわるだ、帰ったら一番、爺様《じいさま》と相談すべいか、だって、お銭《あし》にゃならねえとよ。」
 と奴《やっこ》は悄乎《しょ》げて指を噛《か》む。
「いいえさ、今が今というんじゃないんだよ。突然《いきなり》そんな事をいっちゃ不可《いけな》いよ、まあ、話だわね。」
 と軽くいって、気をかえて身を起した、女房は張板《はりいた》をそっと撫《な》で、
「慾張ったから乾き切らない。」
「何、姉《あね》さんが泣くからだ、」
 と唐突《だ
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