垣とも、岸を頼んだ若木の家造《やづく》り、近ごろ別家をしたばかりで、葺《ふ》いた茅《かや》さえ浅みどり、新藁《しんわら》かけた島田が似合おう、女房は子持ちながら、年紀《とし》はまだ二十二三。
去年ちょうど今時分、秋のはじめが初産《ういざん》で、お浜といえば砂《いさご》さえ、敷妙《しきたえ》の一粒種《ひとつぶだね》。日あたりの納戸に据えた枕蚊帳《まくらがや》の蒼《あお》き中に、昼の蛍の光なく、すやすやと寐入《ねい》っているが、可愛らしさは四辺《あたり》にこぼれた、畳も、縁も、手遊《おもちゃ》、玩弄物《おもちゃ》。
犬張子《いぬはりこ》が横に寝て、起上り小法師《こぼし》のころりと坐《すわ》った、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳《そえぢ》の衣紋《えもん》も繕わず、姉《あね》さんかぶりを軽《かろ》くして、襷《たすき》がけの二の腕あたり、日ざしに惜気《おしげ》なけれども、都育ちの白やかに、紅絹《もみ》の切《きれ》をぴたぴたと、指を反らした手の捌《さば》き、波の音のしらべに連れて、琴の糸を辿《たど》るよう、世帯染みたがなお優しい。
秋日和の三時ごろ、人の影より、黍《きび》の影、一つ赤蜻蛉
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