か》ね上げた鮪縄の、舷《ふなべり》より高かったのがよ、一掬《ひとすく》いにずッと伸《の》した! その、十丈、十五丈、弓なりに上から覗《のぞ》くのやら、反りかえって、睨《にら》むのやら、口さあげて威《おど》すのやら、蔽《おお》わりかかって取り囲んだ、黒坊主の立《たち》はだかっている中へ浪に揉《も》まれて行かしっけえ、船の中ではその綱を手ン手に取って、理右衛門爺さま、その時にお念仏だ。
やっと時が立って戻ってござった。舷へ手をかけて、神様のような顔を出して、何にもねえ、八方から波を打《ぶッ》つける暗礁《かくれいわ》があるばかりだ、迷うな、ッていわしった。
お船頭、御苦労じゃ、御苦労じゃ、お船頭と、皆《みんな》握拳《にぎりこぶし》で拝んだだがね。
坊主も島も船の影も、さらりと消えてよ。そこら山のような波ばかり。
急に、あれだ、またそこらじゅう、空も、船も、人の顔も波も大きい大きい海の上さ半分仕切って薄黄色になったでねえか。
ええ、何をするだ、あやかしめ、また拡がったなッて、皆《みんな》くそ焼けに怒鳴ったっけえ。そうじゃねえ、東の空さお太陽《てんとう》さまが上《あが》らっしたが、そこ
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