》にざあざあと船さ目がけて突蒐《つっかか》る。
 アホイ、ホイとどこだやら呼ばる声さ、あちらにもこちらにも耳について聞えるだね。」

       九

「その時さ、船は八丁艪《はっちょうろ》になったがな、おららが呼ばる声じゃねえだ。
 やっぱりおなじ処に、舵《かじ》についた、あやし火のあかりでな、影のような船の形が、薄ぼんやり、鼠色して煙《けむ》が吹いて消える工合《ぐあい》よ、すッ飛んじゃするすると浮いて行《ゆ》く。
 難有《ありがて》え、島が見える、着けろ着けろ、と千太が喚《わめ》く。やあ、どこのか船も漕《こ》ぎつけた、島がそこに、と理右衛門爺《りえむじい》さま。直《じき》さそこに、すくすくと山の形さあらわれて、暗《やみ》の中|突貫《つきぬ》いて大幅な樹の枝が、※[#「さんずい+散」、288−10]のあいだに揺《ゆす》ぶれてな、帆柱さ突立《つった》って、波の上を泳いでるだ。
 血迷ったかこいつら、爺様までが何をいうよ、島も山も、海の上へ出たものは石塊《いしころ》一ツある処じゃねえ。暗礁《かくれいわ》へ誘い寄せる、連《つれ》を呼ぶ幽霊船《ゆうれいぶね》だ。気を確《たしか》に持たっせえ
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