ごろごろと八九人さ、小さくなってすくんでいるだね。
どこだも知んねえ海の中に、船さただ一|艘《そう》で、目の前さ、化物に取巻かれてよ、やがて暴風雨《あらし》が来ようというだに、活《い》きて働くのはこんの兄哥、ただ一人だと思や心細いけんどもな、兄哥は船頭、こんな時のお船頭だ。」
女房は引入れられて、
「まあ、ねえ、」とばかり深い息。
奴《やっこ》は高慢に打傾き、耳に小さな手を翳《かざ》して、
「轟《ごう》――とただ鳴るばかりよ、長延寺様さ大釣鐘を半日|天窓《あたま》から被《かぶ》ったようだね。
うとうととこう眠ったっぺ。相撲を取って、ころり投げ出されたと思って目さあけると、船の中は大水だあ。あかを汲《く》み出せ、大変だ、と船も人もくるくる舞うだよ。
苫《とま》も何も吹飛ばされた、恐しい音ばかりで雨が降るとも思わねえ、天窓《あたま》から水びたり、真黒な海坊主め、船の前へも後へも、右へも左へも五十三十。ぬくぬくと肩さ並べて、手を組んで突立《つった》ったわ、手を上げると袖の中から、口い開《あ》くと咽喉《のど》から湧《わ》いて、真白《まっしろ》な水柱《みずばしら》が、から、倒《さかさま
前へ
次へ
全48ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング