上《はいあが》りそうな形よ、それで片っぺら燃えのびて、おらが持っている艪《ろ》をつかまえそうにした時、おらが手は爪の色まで黄色くなって、目の玉もやっぱりその色に染まるだがね。だぶりだぶり舷《ふなべり》さ打つ波も船も、黄色だよ。それでな、姉《あね》さん、金色になって光るなら、金《かね》の船で大丈夫というもんだが、あやかしだからそうは行かねえ。
時々|煙《けむ》のようになって船の形が消えるだね。浪が真黒《まっくろ》に畝ってよ、そのたびに化物め、いきをついてまた燃えるだ。
おら一生懸命に、艪で掻《かき》のめしてくれたけれど、火の奴は舵にからまりくさって、はあ、婦人《おんな》の裾が巻きついたようにも見えれば、爺《じじい》の腰がしがみついたようでもありよ。大きい鮟鱇《あんこう》が、腹の中へ、白張提灯《しらはりぢょうちん》鵜呑《うの》みにしたようにもあった。
こん畜生、こん畜生と、おら、じだんだを蹈《ふ》んだもんだで、舵へついたかよ、と理右衛門爺《りえむじい》さまがいわっしゃる。ええ、引《ひっ》からまって点《とも》れくさるだ、というたらな。よくねえな、一あれ、あれようぜ、と滅入《めい》った声
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