な火が二つ空を向いて、その背中の突先《とっさき》に睨《にら》んでいたが、しばらくするとな。いまの化鮫《ばけざめ》めが、微塵《みじん》になったように、大きい形はすぽりと消えて、百とも千とも数を知れねえ、いろんな魚《うお》が、すらすらすらすら、黄色な浪の上を渡りおったが、化鮫めな、さまざまにして見せる。唐《から》の海だか、天竺《てんじく》だか、和蘭陀《オランダ》だか、分ンねえ夜中だったけが、おらあそんな事で泣きやしねえ。」と奴《やっこ》は一息に勇んでいったが、言《ことば》を途切らし四辺《あたり》を視《なが》めた。
目の前なる砂山の根の、その向き合える猛獣は、薄《すすき》の葉とともに黒く、海の空は浪の末に黄をぼかしてぞ紅《くれない》なる。
八
「そうする内に、またお猿をやって、ころりと屈《かが》んだ人間ぐれえに縮かまって、そこら一面に、さっと暗くなったと思うと、あやし火の奴《やつ》め、ぶらぶらと裾《すそ》に泡を立てて、いきをついて畝《うね》って来て、今度はおらが足の舵《かじ》に搦《から》んで、ひらひらと燃えただよ。
おらあ、目を塞いだが、鼻の尖《さき》だ。艫《とも》へ這
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