に、はや他愛もねえ軽いのよ。
おらあ、わい、というて、艪を放した。
そん時だ、われの、顔は真蒼《まっさお》だ、そういう汝《おめえ》の面《つら》は黄色いぜ、と苫《とま》の間で、てんでんがいったあ。――あやかし火が通ったよ。
奴《やっこ》、黙って漕げ、何ともするもんじゃねえッて、此家《こん》の兄哥《あにや》が、いわっしゃるで、どうするもんか。おら屈《かが》んでな、密《そっ》とその火を見てやった。
ぼやりと黄色な、底の方に、うようよと何か動いてけつから。」
「えッ、何さ、何さ、三ちゃん、」と忙《せわ》しく聞いて、女房は庇《ひさし》の陰。
日向《ひなた》の奴《やっこ》も、暮れかかる秋の日の黄ばんだ中に、薄黒くもなんぬるよ。
「何だかちっとも分らねえが、赤目鰒《あかめふぐ》の腸《はらわた》さ、引ずり出して、たたきつけたような、うようよとしたものよ。
どす赤いんだの、うす蒼《あお》いんだの、にちにち舳《みよし》の板にくッついているようだっけ。
すぽりと離れて、海へ落ちた、ぐるぐると廻っただがな、大のしに颯《さっ》とのして、一浪《ひとなみ》で遠くまで持って行った、どこかで魚《うお》の目
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