たくるようについて来るだ。」
「………………」
「そして何よ、ア、ホイ、ホイ、アホイと厭な懸声がよ、火の浮く時は下へ沈んで、火の沈む時は上へ浮いて、上下《うえした》に底澄《そこず》んで、遠いのが耳について聞えるだ。」

       七

「何でも、はあ、おらと同じように、誰かその、炎さ漕《こ》いで来るだがね。
 傍《そば》へ来られてはなんねえだ、と艪《ろ》づかを刻んで、急いでしゃくると、はあ、不可《いけね》え。
 向うも、ふわふわと疾《はや》くなるだ。
 こりゃ、なんねえ、しょことがない、ともう打《うっ》ちゃらかして、おさえて突立《つった》ってびくびくして見ていたらな。やっぱりそれでも、来やあがって、ふわりとやって、鳥のように、舳《へさき》の上へ、水際さ離れて、たかったがね。一あたり風を食って、向うへ、ぶくぶくとのびたっけよ。またいびつ形《なり》に円くなって、ぼやりと黄色い、薄濁りの影がさした。大きな船は舳から胴の間へかけて、半分ばかり、黄色くなった。婦人《おんな》がな、裾《すそ》を拡げて、膝《ひざ》を立てて、飛乗った形だっけ。一ぱし大きさも大きいで、艪が上って、向うへ重くなりそうだ
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