、糠雨《ぬかあめ》でも飲むべい、とってな、理右衛門《りえむ》どんが入交《いれか》わって漕《こ》がしつけえ。
や、おぞいな千太、われ、えてものを見て逃げたな。と艫《とも》で爺《じッ》さまがいわっしゃるとの、馬鹿いわっしゃい、ほんとうに寒気がするだッて、千太は天窓《あたま》から褞袍《どてら》被《かぶ》ってころげた達磨《だるま》よ。
ホイ、ア、ホイ、と浪の中で、幽《かすか》に呼ばる声がするだね。
どこからだか分ンねえ、近いようにも聞えれば、遠いようにも聞えるだ。
来やがった、来やがった、陽気が悪いとおもったい! おらもどうも疝気《せんき》がきざした。さあ、誰ぞ来てやってくれ、ちっと踞《しゃが》まねえじゃ、筋張ってしょ事がない、と小半時《こはんとき》でまた理右衛門|爺《じい》さまが潜っただよ。
われ漕《こ》げ、頭痛だ、汝《きさま》漕げ、脚気《かっけ》だ、と皆《みんな》苦い顔をして、出人《でて》がねえだね。
平胡坐《ひらあぐら》でちょっと磁石さ見さしつけえ、此家《ここ》の兄哥《あにや》が、奴《やっこ》、汝《てめえ》漕げ、といわしったから、何の気もつかねえで、船で達者なのは、おらばかり
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