、黙ろう、」と傍《わき》を向いた、片頬《かたほ》に笑《えみ》を含みながら吃驚《びっくり》したような色である。
秘《かく》すほどなお聞きたさに、女房はわざとすねて見せ、
「可《い》いとも、沢山《たんと》そうやってお秘しな。どうせ、三ちゃんは他人だから、お浜の婿さんじゃないんだから、」
と肩を引いて、身を斜め、捩《ねじ》り切りそうに袖《そで》を合わせて、女房は背向《そがい》になンぬ。
奴《やっこ》は出る杭《くい》を打つ手つき、ポンポンと天窓《あたま》をたたいて、
「しまった! 姉《あね》さん、何も秘すというわけじゃねえだよ。
こんの兄哥《あにき》もそういうし、乗組んだ理右衛門|徒《でえ》えも、姉さんには内証にしておけ、話すと恐怖《こわ》がるッていうからよ。」
「だから、皆《みんな》で秘すんだから、せめて三ちゃんが聞かせてくれたって可《い》じゃないかね。」
「むむ、じゃ話すだがね、おらが饒舌《しゃべ》ったって、皆《みんな》にいっちゃ不可《いけね》えだぜ。」
「誰が、そんなことをいうもんですか。」
「お浜ッ児《こ》にも内証だよ。」
と密《そっ》と伸上ってまた縁側から納戸の母衣蚊帳《ほ
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