上《のぼ》せた耳にもつれかかる、おくれ毛を撫でながら、
「厭《いや》な児《こ》だよ、また裾《すそ》を、裾をッて、お引摺りのようで人聞きが悪いわね。」
「錦絵《にしきえ》の姉様《あねさま》だあよ、見ねえな、皆《みんな》引摺ってら。」
「そりゃ昔のお姫様さ。お邸は大尽の、稲葉様の内だって、お小間づかいなんだもの、引摺ってなんぞいるものかね。」
「いまに解きます繻子《しゅす》の帯とけつかるだ。お姫様だって、お小間使だって、そんなことは構わねえけれど、船頭のおかみさんが、そんな弱虫じゃ不可《いけ》ねえや、ああ、お浜ッ児《こ》はこうは育てたくないもんだ。」と、機械があって人形の腹の中で聞えるような、顔には似ない高慢さ。
女房は打笑みつつ、向直って顔を見た。
「ほほほ、いうことだけ聞いていると、三ちゃんは、大層強そうだけれど、その実意気地なしッたらないんだもの、何よ、あれは?」
「あれはッて?」と目をぐるぐる。
「だって、源次さん千太さん、理右衛門爺《りえもんじい》さんなんかが来ると……お前さん、この五月ごろから、粋《いき》な小烏といわれないで、ベソを掻いた三之助だ、ベソ三だ、ベソ三だ。ついでに
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