たごえがわ》へ上げて来ると、じゅうと水が染みて、その破《や》れ目《め》にぶつぶつ泡立《あわだ》って、やがて、満々と水を湛える。
 汐《しお》が入《はい》ると、さて、さすがに濡《ぬ》れずには越せないから、此処《ここ》にも一つ、――以前《さき》の橋とは間《あわい》十|間《けん》とは隔《へだ》たらぬに、また橋を渡してある。これはまた、纔《わず》かに板を持って来て、投げたにすぎぬ。池のつづまる、この板を置いた切《き》れ口《ぐち》は、ものの五歩《いつあし》はない。水は川から灌《そそ》いで、橋を抜ける、と土手形《どてなり》の畦《あぜ》に沿って、蘆《あし》の根へ染《し》み込むように、何処《どこ》となく隠れて、田の畦《あぜ》へと落ちて行《ゆ》く。
 今、汐時《しおどき》で、薄く一面に水がかかっていた。が、水よりは蘆の葉の影が濃かった。
 今日は、無意味では此処《ここ》が渡れぬ、後《あと》の橋が鳴ったから。待て、これは唄《うた》おうもしれない。
 と踏み掛けて、二足《ふたあし》ばかり、板の半《なか》ばで、立《た》ち停《どま》ったが、何《なん》にも聞こえぬ。固《もと》より聞こうとしたほどでもなしに、何とな
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