海の使者
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)何心《なにごころ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三時|下《さが》り
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
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上
何心《なにごころ》なく、背戸《せど》の小橋《こばし》を、向こうの蘆《あし》へ渡りかけて、思わず足を留《と》めた。
不図《ふと》、鳥の鳴《なく》音《ね》がする。……いかにも優しい、しおらしい声で、きりきり、きりりりり。
その声が、直《す》ぐ耳近《みみぢか》に聞こえたが、つい目前《めさき》の樹《き》の枝や、茄子畑《なすばたけ》の垣根にした藤豆《ふじまめ》の葉蔭《はかげ》ではなく、歩行《ある》く足許《あしもと》の低い処《ところ》。
其処《そこ》で、立《た》ち佇《どま》って、ちょっと気を注《つ》けたが、もう留《や》んで寂《ひっそ》りする。――秋の彼岸過ぎ三時|下《さが》りの、西日が薄曇《うすぐも》った時であった。この秋の空ながら、まだ降りそうではない。桜山《さくらやま》の背後《うしろ》に、薄黒い雲は流れ
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