たが、玄武寺《げんむじ》の峰《みね》は浅葱色《あさぎいろ》に晴れ渡って、石を伐《き》り出した岩の膚《はだ》が、中空《なかぞら》に蒼白《あおじろ》く、底に光を帯《お》びて、月を宿《やど》していそうに見えた。
その麓《ふもと》まで見通しの、小橋《こばし》の彼方《かなた》は、一面の蘆で、出揃《でそろ》って早《は》や乱れかかった穂が、霧のように群立《むらだ》って、藁屋《わらや》を包み森を蔽《おお》うて、何物にも目を遮《さえぎ》らせず、山々の茅《かや》薄《すすき》と一連《ひとつら》に靡《なび》いて、風はないが、さやさやと何処《どこ》かで秋の暮を囁《ささや》き合う。
その蘆の根を、折れた葉が網に組み合せた、裏づたいの畦路《あぜみち》へ入ろうと思って、やがて踏《ふ》み出す、とまたきりりりりと鳴いた。
「なんだろう」
虫ではない、確かに鳥らしく聞こえるが、やっぱり下の方で、どうやら橋杭《はしぐい》にでもいるらしかった。
「千鳥かしらん」
いや、磯でもなし、岩はなし、それの留まりそうな澪標《みおつくし》もない。あったにしても、こう人《ひと》近く、羽を驚かさぬ理由《わけ》はない。
汀《みぎわ》の
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