蘆に潜《ひそ》むか、と透《す》かしながら、今度は心してもう一歩《ひとあし》。続いて、がたがたと些《ち》と荒く出ると、拍子《ひょうし》に掛かって、きりきりきり、きりりりり、と鳴き頻《しき》る。
熟《じっ》と聞きながら、うかうかと早《は》や渡り果てた。
橋は、丸木を削《けず》って、三、四本並べたものにすぎぬ。合せ目も中透《なかす》いて、板も朽ちたり、人通りにはほろほろと崩《くず》れて落ちる。形《かたち》ばかりの竹を縄搦《なわから》げにした欄干《てすり》もついた、それも膝《ひざ》までは高くないのが、往《ゆ》き還《かえ》り何時《いつ》もぐらぐらと動く。橋杭《はしぐい》ももう痩《や》せて――潮入《しおい》りの小川の、なだらかにのんびりと薄墨色《うすずみいろ》して、瀬は愚か、流れるほどは揺れもしないのに、水に映る影は弱って、倒《さかさま》に宿る蘆《あし》の葉とともに蹌踉《よろよろ》する。
が、いかに朽ちたればといって、立樹《たちき》の洞《ほら》でないものを、橋杭に鳥は棲《す》むまい。馬の尾に巣くう鼠《ねずみ》はありと聞けど。
「どうも橋らしい」
もう一度、試みに踏み直して、橋の袂《たもと》
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