こで字下げ終わり]
紅《くれない》の綱で曳《ひ》く、玉《たま》の轆轤《ろくろ》が、黄金《こがね》の井の底に響く音。
「ああ、橋板《はしいた》が、きしむんだ。削《けず》ったら、名器の琴になろうもしれぬ」
そこで、欄干《らんかん》を掻《か》い擦《さす》った、この楽器に別れて、散策《さんさく》の畦《あぜ》を行《ゆ》く。
と蘆の中に池……というが、やがて十坪《とつぼ》ばかりの窪地《くぼち》がある。汐《しお》が上げて来た時ばかり、水を湛えて、真水には干《ひ》て了《しま》う。池の周囲《まわり》はおどろおどろと蘆の葉が大童《おおわらわ》で、真中所《まんなかどころ》、河童《かっぱ》の皿にぴちゃぴちゃと水を溜《た》めて、其処を、干潟《ひがた》に取り残された小魚《こうお》の泳ぐのが不断《ふだん》であるから、村の小児《こども》が袖《そで》を結《ゆ》って水悪戯《みずいたずら》に掻《か》き廻《まわ》す。……やどかりも、うようよいる。が、真夏などは暫時《しばらく》の汐の絶間《たえま》にも乾き果てる、壁のように固《かた》まり着いて、稲妻《いなずま》の亀裂《ひび》が入《はい》る。さっと一汐《ひとしお》、田越川《
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