魚《うお》だからね、あまり高くは不可《いけ》ません。猫柳《ねこやなぎ》の枝なぞに、ちょんと留《と》まって澄《す》ましている。人の跫音《あしおと》がするとね、ひっそりと、飛んで隠《かく》れるんです……この土手の名物だよ。……劫《こう》の経た奴《やつ》は鳴くとさ」
「なんだか化《ば》けそうだね」
「いずれ怪性《けしょう》のものです。ちょいと気味の悪いものだよ」
で、なんとなく、お伽話《とぎばなし》を聞くようで、黄昏《たそがれ》のものの気勢《けはい》が胸に染《し》みた。――なるほど、そんなものも居《い》そうに思って、ほぼその色も、黒の処へ黄味《きみ》がかって、ヒヤリとしたものらしく考えた。
後《あと》で拵《こしら》え言《ごと》、と分かったが、何故《なぜ》か、ありそうにも思われる。
それが鳴く……と独りで可笑《おか》しい。
もう、一度、今度は両手に両側の蘆を取って、ぶら下るようにして、橋の片端を拍子《ひょうし》に掛けて、トンと遣《や》る、キイと鳴る、トントン、きりりと鳴く。
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(きりりりり、
きり、から、きい、から、
きりりりり、きいから、きいから、)
[#こ
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