》の根を揺《ゆ》すぶる、……ゆらゆら揺すぶる。一揺《ひとゆ》り揺れて、ざわざわと動くごとに、池は底から浮き上がるものに見えて、しだいに水は増して来た。映《うつ》る影は人も橋も深く沈んだ。早《は》や、これでは、玄武寺《げんむじ》を倒《さかさ》に投げうっても、峰《みね》は水底《みなそこ》に支《つか》えまい。
 蘆のまわりに、円《まろ》く拡がり、大洋《わたつみ》の潮《うしお》を取って、穂先に滝津瀬《たきつせ》、水筋《みすじ》の高くなり行《ゆ》く川面《かわづら》から灌《そそ》ぎ込《こ》むのが、一揉《ひとも》み揉んで、どうと落ちる……一方口《いっぽうぐち》[#「一方口《いっぽうぐち》」は底本では「方口《いっぽうぐち》」]のはけ路《みち》なれば、橋の下は颯々《さっさっ》と瀬になって、畦《あぜ》に突き当たって渦《うず》を巻くと、其処《そこ》の蘆は、裏を乱《みだ》して、ぐるぐると舞うに連れて、穂綿が、はらはらと薄暮《うすくれ》あいを蒼《あお》く飛んだ。
[#ここから3字下げ]
(さっ、さっ、さっ、
 しゅっ、しゅっ、しゅっ、
 エイさ、エイさ!)
[#ここで字下げ終わり]
 と矢声《やごえ》を懸けて、
前へ 次へ
全15ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング