蘆の穂を頬摺《ほほず》りに、と弓杖《ゆんづえ》をついた処は可《よ》かったが、同時に目の着く潮《うしお》のさし口。
川から、さらさらと押して来る、蘆の根の、約二|間《けん》ばかりの切れ目の真中《まんなか》。橋と正面に向き合う処に、くるくると渦《うず》を巻いて、坊主《ぼうず》め、色も濃く赫《くわッ》と赤らんで見えるまで、躍り上がる勢いで、むくむく浮き上がった。
ああ、人間に恐れをなして、其処《そこ》から、川筋を乗って海へ落ち行《ゆ》くよ、と思う、と違う。
しばらく同じ処に影を練って、浮《う》いつ沈みつしていたが、やがて、すいすい、横泳ぎで、しかし用心深そうな態度で、蘆の根づたいに大廻りに、ひらひらと引き返す。
穂は白く、葉の中に暗くなって、黄昏《たそがれ》の色は、うらがれかかった草の葉末に敷き詰めた。
海月《くらげ》に黒い影が添って、水を捌《さば》く輪が大きくなる。
そして動くに連《つ》れて、潮《しお》はしだいに増すようである。水《み》の面《も》が、水の面が、脈《みゃく》を打って、ずんずん拡《ひろ》がる。嵩《かさ》増《ま》す潮は、さし口《ぐち》を挟《はさ》んで、川べりの蘆《あし
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