てまた泳ぐ。
「此奴《こいつ》」
 と思わず呟《つぶや》いて苦笑した。
「待てよ」
 獲物《えもの》を、と立って橋の詰《つめ》へ寄って行《ゆ》く、とふわふわと着いて来て、板と蘆《あし》の根の行《ゆ》き逢った隅《すみ》へ、足近く、ついと来たが、蟹《かに》の穴か、蘆の根か、ぶくぶく白泡《しろあわ》が立ったのを、ひょい、と気なしに被《かぶ》ったらしい。
 ふッ、と言いそうなその容体《ようだい》。泡を払うがごとく、むくりと浮いて出た。
 その内《うち》、一本《ひともと》根から断《き》って、逆手《さかて》に取ったが、くなくなした奴《やつ》、胴中《どうなか》を巻いて水分かれをさして遣《や》れ。
 で、密《そっ》と離れた処《ところ》から突ッ込んで、横寄せに、そろりと寄せて、這奴《しゃつ》が夢中で泳ぐ処を、すいと掻《か》きあげると、つるりと懸かった。
 蓴菜《じゅんさい》が搦《から》んだようにみえたが、上へ引く雫《しずく》とともに、つるつると辷《すべ》って、もう何《なん》にもなかった。
「鮹《たこ》の燐火《ひとだま》、退散《たいさん》だ」
 それみろ、と何か早《や》や、勝ち誇った気構《きがま》えして、
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