潮《しお》を射て駈《か》けるがごとく、水の声が聞きなさるる。と見ると、竜宮の松火《たいまつ》を灯《とも》したように、彼の身体《からだ》がどんよりと光を放った。
 白い炎が、影もなく橋にぴたりと寄せた時、水が穂に被《かぶ》るばかりに見えた。
 ぴたぴたと板が鳴って、足がぐらぐらとしたので私《わたし》は飛び退《の》いた。土に下りると、はや其処に水があった。
 橋がだぶりと動いた、と思うと、海月は、むくむくと泳ぎ上がった。水はしだいに溢《あふ》れて、光物《ひかりもの》は衝々《つつ》と尾を曳《ひ》く。
 この動物は、風の腥《なまぐさ》い夜《よ》に、空《そら》を飛んで人を襲うと聞いた……暴風雨《あらし》の沖には、海坊主《うみぼうず》にも化《ばけ》るであろう。
 逢魔《おうま》ヶ時を、慌《あわただ》しく引き返して、旧《もと》来た橋へ乗る、と、
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(きりりりり)
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 と鳴った。この橋はやや高いから、船に乗った心地《ここち》して、まず意《こころ》を安んじたが、振り返ると、もうこれも袂《たもと》まで潮《しお》が来て、海月はひたひたと詰め寄せた。が、さすがに、
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