たろう。」
「いいえ、泣きとうございました。」
記念ながら
十四
二ツ三ツ話の口が開《あ》けると老功の七兵衛ちっとも透《すか》さず、
「何しろ娑婆《しゃば》へ帰ってまず目出度《めでたい》、そこで嬰児《あかんぼ》は名は何と謂《い》う、お花か、お梅か、それとも。」
「ええ、」といいかけて菊枝は急に黙ってしまった。
様子を見て、七兵衛は気を替えて、
「可《い》いや、まあそんなことは。ところで、粥《かゆ》が出来たが一杯どうじゃ、またぐっと力が着くぜ。」
「何にも喰べられやしませんわ。」と膠《にべ》の無い返事をして、菊枝は何か思出してまた潸然《さめざめ》とするのである。
「それも可いよ。はは、何か謂われると気に障って煩《うるさ》いな? 可いや、可いやお前になってみりゃ、盆も正月も一斉《いちどき》じゃ、無理はねえ。
それでは御免|蒙《こうむ》って、私《わし》は一膳《いちぜん》遣附《やッつ》けるぜ。鍋《なべ》の底はじりじりいう、昨夜《ゆうべ》から気を揉《も》んで酒の虫は揉殺したが、矢鱈《やたら》無性《むしょう》に腹が空いた。」と立ったり、居たり、歩行《ある》いた
前へ
次へ
全50ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング