るんだ、濡れていても構うめえ、どッこいしょ。」
 七兵衛は※[#「虫+奚」、第3水準1−91−59]※[#「虫+斥」、第3水準1−91−53]《ばった》のような足つきで不行儀に突立《つった》つと屏風の前を一跨《ひとまたぎ》、直《すぐ》に台所へ出ると、荒縄には秋の草のみだれ咲《ざき》、小雨が降るかと霧かかって、帯の端|衣服《きもの》の裾《すそ》をしたしたと落つる雫《しずく》も、萌黄《もえぎ》の露、紫の露かと見えて、慄然《ぞっ》とする朝寒《あささむ》。
 真中《まんなか》に際立って、袖も襟も萎《な》えたように懸《かか》っているのは、斧《よき》、琴、菊を中形に染めた、朝顔の秋のあわれ花も白地の浴衣である。
 昨夜《ゆうべ》船で助けた際、菊枝は袷《あわせ》の上へこの浴衣を着て、その上に、菊五郎格子の件《くだん》の帯上《おびあげ》を結んでいたので。
 謂《いわれ》は何かこれにこそと、七兵衛はその時から怪《あやし》んで今も真前《まっさき》に目を着けたが、まさかにこれが死神で、菊枝を水に導いたものとは思わなかったであろう。
 実際お縫は葛籠《つづら》の中を探して驚いたのもこれ、眉を顰《ひそ》めたのも
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