変らず、……きっとだと、両親《ふたおや》が指図で、小僧兼内弟子の弥吉《やきち》というのを迎《むかい》に出すことにした。
「菊枝が毎度出ましてお邪魔様でございます、難有《ありがと》う存じます。それから菊枝に、病気揚句だ、夜更《よふか》しをしては宜《よ》くないからお帰りと、こう言うのだ。汝《てめえ》またかりん糖の仮色《こわいろ》を使って口上を忘れるな。」
坐睡《いねむり》をしていたのか、寝惚面《ねぼけづら》で承るとむっくと立ち、おっと合点お茶の子で飛出した。
わっしょいわっしょいと謂《い》う内に駆けつけて、
「今晩は。」というと江崎が家の格子戸をがらりと開けて、
「今晩は。」
時に返事をしなかった、上框《あがりがまち》の障子は一枚左の方へ開けてある。取附《とッつき》が三畳、次の間《ま》に灯《あかり》は点《つ》いていた、弥吉は土間の処へ突立《つった》って、委細構わず、
「へい毎度出ましてお邪魔様でございます、難有《ありがと》う存じます。ええ、菊枝さん、姉さん。」
二
「菊枝さん、」とまた呼んだが、誰も返事をするものがない。
立続けに、
「遅いからもうお帰りなさいまし
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