五十七の今年二十六年の間、遊女八人の身抜《みぬけ》をさしたと大意張《おおいばり》の腕だから、家作などはわがものにして、三月ばかり前までは、出稼《でかせぎ》の留守を勤め上《あが》りの囲物《かこいもの》、これは洲崎に居た年増《としま》に貸してあったが、その婦人《おんな》は、この夏、弁天町の中通《なかどおり》に一軒|引手茶屋《ひきてぢゃや》の売物があって、買ってもらい、商売をはじめたので空家になり、また貸札でも出そうかという処へ娘のお縫。母親の富とは大違いな殊勝な心懸《こころがけ》、自分の望みで大学病院で仕上げ、今では町|住居《ずまい》の看護婦、身綺麗《みぎれい》で、容色《きりょう》も佳《よ》くって、ものが出来て、深切で、優《おとな》しいので、寸暇のない処を、近ごろかの尾上家に頼まれて、橘之助の病蓐《びょうじょく》に附添って、息を引き取るまで世話をしたが、多分の礼も手に入るる、山そだちは山とか、ちと看病|疲《づかれ》も出たので、しばらく保養をすることにして帰って来て、ちょうど留守へ入って独《ひとり》で居る。菊枝は前の囲者が居た時分から、縁あってちょいちょい遊びに行ったが、今のお縫になっても相
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