屋があり、その一人娘で菊枝という十六になるのが、秋も末方の日が暮れてから、つい近所の不動の縁日に詣《まい》るといって出たのが、十時半過ぎ、かれこれ十一時に近く、戸外《おもて》の人通《ひとどおり》もまばらになって、まだ帰って来なかった。
別に案ずるまでもない、同《おなじ》町の軒並び二町ばかり洲崎《すさき》の方へ寄った角に、浅草紙、束藁《たわし》、懐炉灰《かいろばい》、蚊遣香《かやりこう》などの荒物、烟草《たばこ》も封印なしの一銭五厘二銭玉、ぱいれっと、ひーろーぐらいな処を商う店がある、真中《まんなか》が抜裏の路地になって合角《あいかど》に格子戸|造《づくり》の仕舞家《しもたや》が一軒。
江崎とみ、と女名前、何でも持って来いという意気|造《づくり》だけれども、この門札《かどふだ》は、さる類《たぐい》の者の看板ではない、とみというのは方違いの北の廓《くるわ》、京町とやらのさる楼《うち》に、博多《はかた》の男帯を後《うしろ》から廻して、前で挟んで、ちょこなんと坐って抜衣紋《ぬきえもん》で、客の懐中《ふところ》を上目で見るいわゆる新造《しんぞ》なるもので。
三十の時から二階三階を押廻して、
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