》えてみた。
「お嬢さん、盗賊《どろぼう》?」と弥吉は耐《たま》りかねて頓興《とんきょう》な声を出す。
「待って頂戴。」
お縫は自らおのが身を待たして、蓋を引いたままじっとして勝手許《かってもと》に閉《しま》っている一枚の障子を、その情の深い目で瞶《みつ》めたのである。
四
「弥吉どん。」
「へい、」
「おいで、」と言うや否や、ずいと立って件《くだん》の台所《だいどこ》の隔ての障子。
柱に掴《つかま》って覗《のぞ》いたから、どこへおいでることやらと、弥吉はうろうろする内に、お縫は裾《すそ》を打って、ばたばたと例の六畳へ取って返した。
両三度あちらこちら、ものに手を触れて廻ったが、台洋燈《だいランプ》を手に取るとやがてまた台所。
その袂《たもと》に触れ、手に触り、寄ったり、放れたり、筋違《すじちがい》に退《の》いたり、背後《うしろ》へ出たり、附いて廻って弥吉は、きょろきょろ、目ばかり煌《きらめ》かして黙然《だんまり》で。
お縫は額さきに洋燈《ランプ》を捧げ、血が騒ぐか細おもての顔を赤うしながら、お太鼓の帯の幅ったげに、後姿で、すっと台所へ入った。
と思うと、
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