液《しずく》が、木《こ》づたふ雨の如く、片濁《かたにご》りしつつ半《なか》ば澄んで、ひた/\と湛《たた》へて居た。油《あぶら》即《すなわち》此《これ》であつた。
呆《あき》れた人々の、目鼻の、眉《まゆ》とともに動くに似ず、けろりとした蝦蟆が、口で、鷹揚《おうよう》に宙に弧《こ》を描いて、
「とう。とう、とう/\。」
と鳴くにつれて、茸《きのこ》の軸が、ぶる/\と動くと、ぽんと言ふやうに釣瓶《つるべ》の箍《たが》が嚔《くさめ》をした。同時に霧《きり》がむら/\と立つて、空洞《うつろ》を塞《ふさ》ぎ、根を包み、幹を騰《のぼ》り、枝に靡《なび》いた、その霧が、忽《たちま》ち梢《こずえ》から雫《しずく》となり、門内《もんない》に降りそゝいで、やがて小路《こうじ》一面の雨と成つたのである。
官人の、真前《まっさき》に飛退《とびの》いたのは、敢《あえ》て怯《おび》えたのであるまい……衣帯《いたい》の濡《ぬ》れるのを慎《つつし》んだためであらう。
さて、三太夫《さんだゆう》が更《あらた》めて礼して、送りつつ、木《こ》の葉《は》落葉《おちば》につゝまれた、門際《もんぎわ》の古井戸《ふるいど》を
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