覗《のぞ》かせた。覗くと、……
「御覧《ごろう》じまし、殿様。……あの輩《やから》が仕《つかまつ》りまする悪戯《あくぎ》と申しては――つい先日も、雑水《ぞうみず》に此なる井戸を汲《く》ませまするに水は底に深く映りまして、……釣瓶《つるべ》はくる/\とその、まはりまするのに、如何《いか》にしても上《のぼ》らうといたしませぬ。希有《けう》ぢやと申して、邸内《ていない》多人数《たにんず》が立出《たちい》でまして、力を合せて、曳声《えいごえ》でぐいと曳《ひ》きますとな……殿様。ぽかんと上《あが》つて、二三人に、はずみで尻餅《しりもち》を搗《つ》かせながらに、アハヽと笑うた化《ばけ》ものがござりまする。笑ひ落ちに、すぐに井戸の中へ辷《すべ》り込みまする処《ところ》を、おのれと、奴めの頭を掴《つか》みましたが、帽子だけ抜けて残りましたで、其《それ》を、さらしものにいたしまする気で生垣《いけがき》に引掛《ひきか》けて置きました。その帽子が、此の頃の雨つゞきに、何と御覧じまするやうに、恁《かく》の通り。」……
と言つて指《さ》して見せたのが、雨に沢《つや》を帯びた、猪口茸《いぐち》に似た、ぶくりとし
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