槐《えんじゅ》の根を立囲《たちかこ》んだ。地《じ》の少し窪《くぼ》みのあるあたりを掘るのに、一鍬《ひとくわ》、二鍬《ふたくわ》、三鍬《みくわ》までもなく、がばと崩れて五六|尺《しゃく》、下に空洞《うつろ》が開《あ》いたと思へ。
 べとりと一面|青苔《あおごけ》に成つて、欠釣瓶《かけつるべ》が一具《いちぐ》、さゝくれ立《だ》つた朽目《くちめ》に、大《おおき》く生えて、鼠《ねずみ》に黄を帯びた、手に余るばかりの茸《きのこ》が一本。其の笠《かさ》既に落ちたり、とあつて、傍《わき》にものこそあれと説《い》ふ。――こゝまで読んで、私は又|慌《あわ》てた。化《ば》けて角《つの》の生えた蛞蝓《なめくじ》だと思つた、が、然《そ》うでない。大《おおい》なる蝦蟆《がま》が居た。……其の疣《いぼ》一つづゝ堂門《どうもん》の釘《くぎ》かくしの如しと言ふので、巨《おおき》さのほども思はれる。
 蝦蟆《がま》即《すなわち》牛矣《うし》、菌《きのこ》即《すなわち》其人也《そのひとなり》。古釣瓶《ふるつるべ》には、その槐《えんじゅ》の枝葉《しよう》をしたゝり、幹《みき》を絞り、根に灌《そそ》いで、大樹《たいじゅ》の津
前へ 次へ
全10ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング