《およびごし》だから、力が足りない。荒く触つたと言ふばかりで、その身体《からだ》が揺れたとも見えないのに、ぽんと、笠《かさ》ぐるみ油売《あぶらうり》の首が落ちて、落葉《おちば》の上へ、ばさりと仰向《あおむ》けに転げたのである。
「やあ、」とは言つたが、無礼討御免《ぶれいうちごめん》のお国柄《くにがら》、それに何、たかが油売の首なんぞ、ものの数ともしないのであつた。が、主従《しゅうじゅう》ともに一驚《いっきょう》を吃《きっ》したのは、其の首のない胴躯《どうむくろ》が、一煽《ひとあお》り鞍に煽《あお》ると斉《ひと》しく、青牛《せいぎゅう》の脚《あし》が疾《はや》く成つて颯《さっ》と駈出《かけだ》した事である。
ころげた首の、笠と一所《いっしょ》に、ぱた/\と開《あ》く口より、眼球《めだま》をくる/\と廻して見据《みす》ゑて居た官人が、此の状《さま》を睨《にら》み据《す》ゑて、
「奇怪ぢや、くせもの、それ、見届けろ。」
と前に立つて追掛《おいか》けると、ものの一|町《ちょう》とは隔《へだ》たらない、石垣も土塀《どべい》も、葎《むぐら》に路《みち》の曲角《まがりかど》。突当《つきあた》りに
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