無《な》く、手早《てばや》く又《また》障子《しやうじ》を閉《し》めた。音《おと》はかはらず聞《きこ》えて留《や》まぬ。
 處《ところ》へ、細君《さいくん》はしどけない寢衣《ねまき》のまゝ、寢《ね》かしつけて居《ゐ》たらしい、乳呑兒《ちのみご》を眞白《まつしろ》な乳《ちゝ》のあたりへしつかりと抱《だ》いて色《いろ》を蒼《あを》うして出《で》て見《み》えたが、ぴつたり私《わたし》の椅子《いす》の下《もと》に坐《すわ》つて、石《いし》のやうに堅《かた》くなつて目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて居《ゐ》る。
 おい山田《やまだ》下《お》りて來《こ》い、と二階《にかい》を大聲《おほごゑ》で呼《よ》ぶと、ワツといひさま、けたゝましく、石垣《いしがき》が崩《くづ》れるやうにがたびしと駈《か》け下《お》りて、私《わたし》の部屋《へや》へ一所《いつしよ》になつた。いづれも一言《ひとこと》もなし。
 此上《このうへ》何事《なにごと》か起《おこ》つたら、三人《さんにん》とも團子《だんご》に化《な》つてしまつたらう。
 何《なん》だか此池《このいけ》を仕切《しき》つた屋根《やね》
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