いづれも聲《こゑ》を飮《の》んで脈《みやく》を數《かぞ》へて居《ゐ》たらしい。
窓《まど》と筋斜《すぢかひ》に上下《うへした》差向《さしむか》つて居《ゐ》る二階《にかい》から、一度《いちど》東京《とうきやう》に來《き》て博文館《はくぶんくわん》の店《みせ》で働《はたら》いて居《ゐ》たことのある、山田《やまだ》なにがしといふ名代《なだい》の臆病《おくびやう》ものが、あてもなく、おい/\と沈《しづ》んだ聲《こゑ》でいつた。
同時《どうじ》に一室《ひとま》措《お》いた奧《おく》の居室《へや》から震《ふる》へ聲《ごゑ》で、何《なん》でせうね。更《さら》に、一寸《ちよつと》何《なん》でせうね。止《や》むことを得《え》ず、えゝ、何《なん》ですか、音《おと》がしますが、と、之《これ》をキツカケに思《おも》ひ切《き》つて障子《しやうじ》を開《あ》けた。池《いけ》はひつくりかへつても居《を》らず、羽目板《はめいた》も落《お》ちず、壁《かべ》の破《やぶれ》も平時《いつも》のまゝで、月《つき》は形《かたち》は見《み》えないが光《ひかり》は眞白《まつしろ》にさして居《ゐ》る。とばかりで、何事《なにごと》も
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